お元気ですか?

若い頃は社交辞令があまり好きになれなかった。健康の話や天気の話。会議の序盤で繰り広げられる雑談や、予定調和の枕詞めいた文言。なぜすぐに本題に入らないのだろうと思っていた。今はそう思わない。相手への気遣い、思いやりが込められたものがほとんどだと感じる。

最近、影響を受けたミュージシャンの訃報が続いた。それを受けて私を思い出し、連絡してきてくれた友人がいた。年齢は私と同じ。一人息子は我が子より一歳年下だ。連絡は5年ぶりで、もちろん積もる話もあるけれど、取り急ぎ最重要なのは「元気?」ってことであったし、元気であればもうそれでいい、元気が何より大事ということで、元気かどうかを10回くらい確認しあってしまった。

お元気ですか?おかげさまで。本日はお日柄もよく。

今改めて字面を見ると、なんとありがたく幸せな状況であろうか。お互いが元気で、天気すら元気であるという状況。何ものにも変え難い。それでいて、このやりとりが生むさりげない余白は、何かを察知したり発言するきっかけともなり得る。そういえばなんて、小さな不調や、悲しいことを吐き出すこともできるかもしれないではないか。惰性で使っている定型分に意味などないと思っていた若かりし頃の自分を、あまりにも浅はかすぎるよねと懐かしみながら、社交辞令の大切さが身に染みる。

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