ゴーストライター

昔は「ゴーストライター」って単語にネガティブなイメージを持っていた。影武者というか、暗躍する人というか。ゴーストライターを使うってことは後ろめたいことで、それがバレるとあなたには文才がないですねってことを証明することになるのでは?みたいに思っていた。

今はそうは思わない。まあ、暗躍する人というのは当たっているが。

ライターという職業についてから思うのは、私の仕事ってほぼゴーストライターじゃんということである。ブランドコンセプトコピーを書く。取材してインタビュー記事を書く。新商品の特徴をまとめる。著者:AYANAとなっている以外のあらゆるものは、私がゴーストライターとして書いたものだと言っていい。

私は誰かの気持ちを翻訳して言語化したいという気持ちが強い。「こういうことが言いたかったんです」「私の言葉を美しくまとめてくれてありがとう」などの反応をもらえると、本当にうれしい。それってゴーストライターということなんじゃないか?そこに私の存在はあってもなくても別にいい。ただ、主人公となる人の気持ちがしかるべき誰かに届いたら、それがとてもうれしいのだ。

以前、知人がウェブにアップされた自分自身のインタビュー記事について「私はこんなこと言ってないのに勝手に書かれている」と怒っているのを見たことがある(ネット上で)。ライターに(なのか編集部になのかわからないけど)情報操作されている、というわけですね。校正しなかったの?って話なんだけど、こうなってしまうと悲劇である。

高校生のとき読んでいた音楽雑誌で、イギリスかどっかのアーティストだったと思うが「日本のメディアは言ったことをちゃんとそのまま記事にしてくれるから好き。自国のメディアはあることないこと書くから嫌い」的なことを言っていた(のを日本のメディアが書いていた)。当時は「その人が言ったことだけをそのまま忠実に言語化するのが正解なんだ」とうすぼんやり思っていたが、今ならわかる。そういうことではない。

「そういうことが言いたかった」あるいは「そういうことを私は言ったのだ」という内容が、理想的な(意外性のあるものも含む)形でそこにあれば、きっと誰も文句は言わない。そして私のようなライターはそこを目指すべきなのだろうと強く思う。

いつかラブレターの代筆なんかもしてみたい。映画『Her』にあったよね。

© 2023 AYANA