『怪物』

映画『怪物』をようやく観た。
監督が是枝裕和さんで脚本が坂元裕二さんであるということくらいしか事前情報を入れずに観たのですが、クィア・パルム賞なるものを受賞しているんですね。

私はクィア当事者としての苦悩を背負っているわけではない。そしてシングルマザーである。この2点が強く関係しているからだと思うけれど、個人的には「クィアを題材とした映画」という印象は受けなかった。そして是枝さんも坂元さんも男性だなぁという感想を抱いた。男性はやさしい。そしてロマンチストだ。これは私が男児の母親という視点に立ってしみじみと実感していることである。

是枝監督の作品をすべて観ているわけではないけれど、私のなかでは「置いて行かれた側がどう生きるか」みたいな視点、そして「家族」というモチーフにこだわりが強い人という印象がある。今回はひとつの家族にフォーカスした作品という感じではなかったけれど、それでも是枝監督の映画だなぁ、としみじみするには十分な内容だった。

人間が持つ特有の気持ち悪さや弱さ、事前情報や視点、立場によって同じ事象でも簡単に見え方が変わってしまう儚さ、大切なものを守りたい気持ち、そんなものに思いを馳せる映画だった。「男らしさ」「普通の幸せ」「片親家庭」「いじめの隠蔽」などのあからさまな描写はあるものの、なんとなくそこは坂元さんだしなと思ったりもした。そうだね。そうかな?そうだね。みたいな。

是枝監督の映画に出てくる子どもたちは、みんなどこか似たような目をしている。なんとなく、大人がごめんねと懺悔したくなってしまうような目をしていると思う。私ももう、そのごめんねを言う側に来てしまった。

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